堅物社長にグイグイ迫られてます
「浮田さん。今度打ち合わせでいらっしゃるときはできれば佐原に事前に伝えてから来てください」

「あ、ああ。もちろん」

浮田さんは私たちを振り返ると少しひきつった笑顔を見せてから事務所を後にした。

なんだか慌てたように帰って行った浮田さんを不思議に思いつつしばらく扉を見つめていると、いつの間に移動して来たのか御子柴さんがすぐそばに立っていた。そしてコピー機の中断ボタンを押した。

「アホ。こんなの嘘に決まってるだろ」

セットされた資料を手に取るとくるくると丸めて私の頭に軽くコツンとたたいた。

「嘘?」

「ああ」

頷きながら御子柴さんが再び自席へと戻っていく。その背中を見つめながら私はハッと気がついた。

もしかして御子柴さんは私が浮田さんに誘われて断れないでいるのを助けてくれたのかもしれない。

イスに腰掛けた御子柴さんは仕事のときにだけ身に着けている黒渕の眼鏡をかけるとノートパソコンのマウスをカチカチと動かしている。

「御子柴さんありがとうございました」

お礼の声をかけると、御子柴さんからはなぜか深いため息が聞こえた。
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