堅物社長にグイグイ迫られてます



金木犀の甘い香りが漂う十月大安日曜日。

袖と襟部分が繊細なレースで施されたサテン生地のベージュのドレスを身に着けた私は都内にあるウエディング会場にいた。

閑静な街の中にひっそりと佇むようにあるこの会場は、平日はイタリアンレストランとして営業しているけれど土日になると結婚式会場として使用されるらしい。

緑溢れるガーデンでは今から華やかなバルーンリリースが行われようとしている。

「ハッピーウエディング!」

司会の女性の掛け声に合わせてハートの形をした風船がゲストの手より一斉に空へと放たれた。それと同時に会場からは大きな歓声があがり、心地のよい風に乗って色とりどりの風船が雲ひとつない青空に向かってふわふわと飛んでいく。

ここ数日は停滞していた秋雨全線の影響で雨降りのすっきりとしない日が続いていたけれど、一転して今日は朝から爽やかな秋晴れが広がっている。それはまるで天気までもがこの特別な日を祝福しているかのようで。

そういえば、バルーンリリースには、新郎新婦の幸せが天まで届くようにという意味が込められている、と以前なにかのテレビで見た気がする。

会場の中心には白いタキシード姿の新郎と上品なエンパイアラインのウエディングドレスに身を包んだ新婦がぴったりと寄り添い幸せそうな笑顔を見せている。
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