堅物社長にグイグイ迫られてます
「別れたばかりの彼氏と結婚式で顔を合わせるとか気まずいよね」

ごめん、とはどうやらこのことらしい。汐里は、私が会場の隅にあるベンチで一人でポツンと座っているのは元彼である俊君と同じ空間にいることが気まずいからだと思っているようだ。

「違うよ。気にしないで。俊君のことはもう大丈夫だから」

私は首と手を大きく横に振って答える。

「それに、私と汐里が仲良しだったように、俊君と将生君も仲良かったから」

汐里の旦那である将生君も私たちと同じ大学出身者で俊君の友達でもある。だから俊君も今日の結婚式には当然のように呼ばれていた。

正直、今日の結婚式に参列するまで俊君と会うことを気まずく感じていたのは確かだ。どんな顔で会えばいいのかまだ分からなかった。かと言って汐里の結婚式に参列しないという選択肢はなかったので、覚悟を決めてこの会場に来た。

受付をすませたあと、式が始まるまでの待合室の中で特に俊君の姿を探したわけではなかったけれど、ふと互いの視線が合ってしまった。別れたとはいえせっかくの汐里の結婚式で不穏な空気を作るのも嫌だったので「久し振り」とか「元気?」とかそういった簡単な挨拶をどちらからともなく交わした。
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