堅物社長にグイグイ迫られてます
私はどこを見たらいいのか分からなくてそっと視線を下に落とした。その拍子に顔も一緒に少し下を向いてしまったらしい。

「よく見せろ」

と、御子柴さんの手が私の顎に触れるとくいっと上を向かされる。

その行動に一瞬ドキッと鼓動が跳ねた。

御子柴さんの視線は相変わらず私のおでこの傷へと向かっているけれど、至近距離にある顔や顎に添えられた手にドキドキしてしまい私は視線をあちこち泳がせる。

「消毒はしてもらったのか?」

そう声を掛けられてハッと我に返った。

「は、はい。式場の方にしてもらいました」

「そうか。でも、まぁ一応またしとくか」

そう呟いた御子柴さんの視線が私のおでこから私の瞳に落ちてきた。至近距離でがっつりと視線がぶつかる。

御子柴さんにじっと見つめられた私もまた瞬きを忘れてしまうくらいじっとすぐ目の前の彼の瞳を見つめ返した。

すると、御子柴さんがふいに首を少しだけ横に傾げる。そのままさらに顔が近づいてきて、気が付くと互いの鼻先が触れ合うほど距離まで近づいていた。

この状況は間違いない。私、御子柴さんにキスされそうになっている。そう気付いた私は反射的に目を瞑った。けれど、その瞬間は一向にやってこなくて……

「悪ぃ」

御子柴さんは私の顎に添えていた手をさっと離した。私も閉じていた目を開ける。
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