堅物社長にグイグイ迫られてます
「たしか向こうの部屋に救急箱があったな」

そう呟くと御子柴さんは素早くリビングを後にしてしまった。

私はその場に呆然と立ち尽くしてしまう。

もしかして御子柴さん、私にキスしようとしてた……?

反射的に目を瞑ってそれを受け入れようとしていた自分がいる。

結局キスはされなかったけれど……。

しばらくするとリビングの扉が開き、救急箱らしい茶色の箱を片手に持った御子柴さんが何事もなかったかのように戻ってきた。

そのあとは私をソファに座らせておでこの傷に消毒液を塗ってくれたのだけれど……。

「痛っ。痛いです御子柴さん。傷に染みます」

「消毒してんだから当たり前だろ」

「染みるぅ~」

「おい、動くな。うまくぬれないだろ」

そう言って御子柴さんは痛がる私が顔を動かさないよう片手で私の顎を掴んで固定させるとくいっと上を向かす。そしてガーゼに消毒液を湿らせるとそれを私のおでこの傷にゆっくりと当てた。

「痛い~染みる~」

「我慢しろ」

「ムリです~」

「だから動くなアホ」

御子紫さんの手は私の顎に添えられ、すぐ目の前には御子柴さんの顔がある。キスをされそうになった先ほどの状況と似ているはずなのに今はドキドキ感は全くない。あるのは、おでこの傷に消毒液を塗られたヒリヒリ感だけだった。


< 252 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop