堅物社長にグイグイ迫られてます


汐里とは夜の九時前には解散になった。

明日の午前の早い時間に結婚式の最終打ち合わせがあるらしい。せっかくの休みなのに早起きするのが面倒くさいとぼやきながらも、汐里は幸せそうに手を振って婚約者の待つ家へと帰って行った。

私も俊君との家に帰ろう。

熱い夏もすっかり過ぎ去り、陽が落ちると少し肌寒く感じる風が吹く中、私はコンビニで肉まんを二つ買って家に帰った。今日もきっと残業で深夜に帰ってくるであろう俊君と二人で食べようと思って。

「ただいま」

アパートに着いた私は玄関の扉を開けると手探りでライトのスイッチを見つけてそれを押した。カチカチっと灯りがゆっくりとともる。

「俊くーん」

きっとまだ残業で家には帰っていないと思いつつもつい彼の名前を呼んでしまう。でもやっぱり返事はなくて家の中はシンと静まっている。

今日は何時に帰ってくるんだろう。肉まん一緒に食べられたらいいなぁ。と、そんなことを思いながら、履いていたパンプスを脱ごうと足に伸ばした手がピタリと止まった。

「えっ……なにこれ?」

ふと気が付くと、玄関には見覚えのないエナメル素材の真っ赤なハイヒールが脱ぎ捨てられている。
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