堅物社長にグイグイ迫られてます
するとそんな私の熱意が伝わったのか、

「分かったよ。雛子ちゃんがそこまで言うなら」

佐原さんがボールペンを手に取ると近くにあるメモ用紙にさらっと文字を書いていく。

「はい。これ悟の実家の住所」

「ありがとうございます」

佐原さんからメモ用紙を受け取ると私は深く頭を下げた。

「それともうひとつお願いがあるんですけど……」

下げていた頭を戻しながら佐原さんに声を掛ける。

「うん。なに?」

「これから御子柴さんの実家に行ってもいいですか?」

「えっ、今から行く気?」

「はい。なんだかずっと落ち着かなくて。今すぐにでも行動したいんです」

佐原さんが書いてくれた御子柴さんの住所はここからなら電車で約四十分はかかると思う。

御子柴さんのお父さんが何時に帰宅するのかは分からないけれど、そのタイミングを狙うなら先回りして待ち構えていないといけない。少しでも早く、定時まではまだ一時間ほどあるけれど今すぐに向かいたい。

そんな私の気持ちを汲んでくれたのか佐原さんが頷いてくれる。

「それなら今日はもう仕事は切り上げていいよ」

「ありがとうございます」

私はペコリと頭を下げるとイスの背もたれにかけていたカーディガンをさっと羽織る。そしてカバンと、先ほど詰め込んだファイルの入った紙袋を手に取ると急いで事務所を飛び出した。


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