堅物社長にグイグイ迫られてます
「お話したいことがあります。少しだけお時間いただけないでしょうか」

お願いします、と私は深く頭を下げて御子柴さんのお父さんの返事を待つ。けれどしばらくして聞こえてきたのは深いため息だった。

「申し訳ないが、私には君と話をする理由がひとつもない」

不機嫌のときの御子柴さんとそっくりのその低い声に私は顔を上げて、御子柴さんのお父さんを見つめる。

「少しだけでいいんてす。話だけでも聞いてください」

そんな私のお願いを相手にすることなく、御子柴さんのお父さんは私に背を向けると門扉の中へと入って行こうとする。

「お願いします。話をさせてください」

必死にそう声を掛けたけれど御子柴さんのお父さんはすでに自宅の敷地内に入ってしまい、開いていた門扉が付き添いの男性の手に寄って閉められてしまった。そのことにしばらく呆然と立ち尽くしてしまう。

そう簡単に御子柴さんのお父さんと話をすることができるとは思っていなかったけれど、こうも軽くあしらわれてしまうとは思わなかった。全く相手にしてもらえなかった。

御子柴さんを助けたくてここまで来たのに私は何もできない。そんな自分の不甲斐なさに思わずその場にしゃがみこむと下を向く。

私にはやっぱり無理だったんだ……。

私はいつも御子柴さんに助けられてばかりで私は御子柴さんのために何もできない。そのことがとても情けないし悔しい。

「うちになにかご用ですか?」

ふと頭上から女の人の声が聞こえた。
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