堅物社長にグイグイ迫られてます
「確かに私は御子柴さんの恋人ではないです。あの日は頼まれて恋人役をしていただけです」

でも、と私は声を張り上げる。

「御子柴さんは私のピンチを何度も救ってくれました。だから今度は私が御子柴さんの力になって助けたいんです」

私の言葉を聞いた御子柴さんのお父さんは腕組みをしたまま険しい表情で私を見つめている。それに負けないよう私も見つめ返す。そのまま気まずい静寂がしばらく流れた。

するとそのとき、廊下から急いでいるような足音が聞こえてきて、どうやらそれはこちらに向かって近付いてきているようだ。そしてこの部屋の前で足音が止まると襖が勢いよく開かれる。

「百瀬っ!」

「御子柴さん?!」

どうしてここに?

突然の御子柴さんの登場に思わず目を見開いてしまう。一方の御子柴さんは急いで来たのか少し息が上がっている。私を見つけると鬼のような形相で近付いてきた。

「アホかお前。こんなとこで何してんだ」

「えっ」

「全部、佐原から聞いた」

「あ、」

そっか。佐原さんから私が御子柴さんの実家に行くことを聞いたんだ。佐原さんには御子柴さんに言わないでくださいと頼んでおけばよかった。

でもきっと佐原さんのことだから、御子柴さんのお父さんと対峙するため一人で御子柴家に乗り込んで行った私のことを心配して御子柴さんにそのことを話したのかもしれない。
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