堅物社長にグイグイ迫られてます
「勝手に御子柴さんの実家に来てしまってすみません。でも私、御子柴さんの力になりたくて」

「だからってお前なぁ」

ため息混じりに御子柴さんはそう言うと、私の隣の席にどかりと腰をおろした。

「この前の創立記念のパーティーのときもそうだったが、お前に全て言わせるなんて俺がかっこ悪過ぎだろ」

それから御子柴さんは正座をして姿勢を正すと向かいの席に座るお父さんへと向き直る。それからはっきりと口を開いた。

「父さん。俺はやっぱり御子柴商事は継げない」

そう告げた御子柴さんの横顔を私は見つめる。

よかった。いつもの御子柴さんだ。そのことに私はホッと胸をなでおろす。

昨夜はかなり弱っていて建築家を辞めて事務所も畳むと言っていたけれど、どうやら思い直してくれたらしい。

今の御子柴さんはいつものようにきりっとした目と自信たっぷりの口調ではっきりと自分の気持ちを告げている。

一方、御子柴さんのお父さんの表情は険しい。眉間に皺を寄せて睨むように御子柴さんを見つめている。けれど御子柴さんはこの前とは違って負けずに言葉を続ける。

「俺は建築家の仕事が好きだ。辞めるつもりはない。御子柴家に生まれたからには家業を継がないといけない使命感も分かってる。でも、俺の人生だ。好きなことをやりたい」

御子柴さんの言葉に御子柴さんのお父さんは何かを考えるような表情を浮かべていたけれど、しばらくすると低い声で「分かった」と告げた。

「珍しく俺にはっきりと意見するんだな、悟。もしかしてその子のおかげか?」

御子柴さんのお父さんの視線がちらっと私に向けられてビクッと肩が跳ねた。けれど、その視線はまた御子柴さんへと戻っていく。
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