堅物社長にグイグイ迫られてます
「今の悟の顔、若い頃のあなたにそっくりよ」

そう言って椿さんがくすっと笑うと、この場の空気が一瞬で柔らかく変わった。

「私との結婚を許してもらおうと父を必死に説得していたときのあなたみたい。反対されて追い返されても何度も何度も父を説得しにうちに来てたわよね」

「おい、そんな話は今は関係ないだろ」

御子柴さんのお父さんが気まずそうにコホンと咳をした。けれど、椿さんは構わずに言葉を続ける。

「私との結婚を許してもらうとき私の父と約束をした通り、御子柴商事はあなたの代で一段と大きく成長したわ。それは誰もが認めてる。御子柴の血が流れていなくてもあなたは御子柴商事の立派な社長よ」

そう告げる椿さんの表情はとても穏やかで、御子柴さんのお父さんは少し俯きながらもしっかりと耳を傾けている。

「御子柴商事は御子柴の人間が継がなくてはいけないなんて決まりはないわ。そうでなくても立派に経営を続けられる。あなたがその良い例でしょ?悟には悟の人生があるの。好きな仕事をして、好きな人と結婚をさせてあげてください」

お願いします、と椿さんは御子柴さんのお父さんに向かってそっと頭を下げた。

「――母さん」

その様子に御子柴さんがそっと声を漏らす。
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