堅物社長にグイグイ迫られてます
「それと、私が白紙にしてしまったお前の仕事を元に戻すよう各関係者に伝えておく。すまなかったな」

そう言うと、御子柴さんのお父さんは静かに部屋を後にした。

「よかったわね、悟」

椿さんがにっこりと頬笑む。

「はい。母さんもありがとうございました」

「いいのよ、気にしないで。私はあなたの味方でもあるけれど、父さんの味方でもあるから」

もしかして椿さんは御子柴さんの肩を持ちつつ、御子柴さんのお父さんがずっと気にしていたものをそっと解してあげたのかもしれない。婿養子として御子柴家に入り、御子柴家と血の繋がりのない御子柴さんのお父さんが長年ずっと抱え込んでいたものを。

そのことに気が付いた私がふと椿さんを見つめると彼女はくすっと笑ってみせた。

「それじゃあ私はお父さんにコーヒーでも淹れてくるわね」

そう言って立ち上がると椿さんも部屋を後にした。残されたのは私と御子柴さんだけ。

「あ、あの、御子柴さん。念のため確認してもいいですか」

私がそっと声を掛けると、いつものぶっきらぼうな返事が戻ってくる。

「なんだ?」

「お父さんは御子柴さんが建築家を続けていくことに納得してくれたんですよね?御子柴設計事務所はなくならずにすむんですよね?」

そう言って御子柴さんの顔を見上げる。

「ああ。とりあえずは、そうだな」

御子柴さんのその返事に私の心が一気に解放されていく。

「よかったですね、御子柴さんっ!」

嬉しさのあまり私は思わず隣に座る御子柴さんに抱きついてしまった。
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