堅物社長にグイグイ迫られてます
「御子柴さんこれからも建築家を続けられますよ。御子柴設計事務所も無事ですよ」

「お、おい。落ち着け」

「よかったぁ。これからも御子柴さんと一緒に仕事ができて」

そう言った瞬間ふと私は今の自分の状況を理解する。大胆にも御子柴さんに抱き着いてしまっている。

「あっ、すみません」

急いで離れようとした私の体は、けれど御子柴さんによって引き戻されてしまった。私の背中に回された御子柴さんの腕の力が強まりぎゅっときつく抱き締められる。

「いろいろお前に言いたいことがあるが、まずは謝らせてくれないか」

耳元で御子柴さんの声がする。彼は私を一度力強く抱きしめると、その腕をゆっくりと解いていく。そして、

「悪かった」

そう言うと御子柴さんは畳におでこが付きそうなほど深く頭を下げた。

「昨日、お前にあんなことして悪いことしたと思ってる。すまなかった」

御子柴さんが言っているのはきっと昨日のあのキスのことだと思う。それなら私も御子柴さんに謝らないといけないことがある。

「私の方こそすみませんでした。御子柴さんがお見合いを嫌がっていること知っていたのに、園田さんと結婚した方がいいなんて言ってしまって」

私は俯くと膝の上に置いた手をきゅっと握り締める。

「……私、嫌われても当然のことを言ってしまいました」

「嫌われるって俺にか?」

「はい」

小さく頷くと隣の御子柴さんが軽く息を吐き出す音が聞こえた。

「やっぱりアホだなお前は」

「へ?」

ア、アホ……?
< 292 / 300 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop