堅物社長にグイグイ迫られてます
私は素早く扉へ振り返ると勢いよく頭を下げた。

「御子柴さん!すみませんでしたぁぁぁ」

ほぼ直角に腰を折ると、耳にかけていた髪の毛がふわっと顔の横にたれてくる。肩より少し下の位置で切り揃えている薄茶の髪はふんわりとウェーブをしているけれど、ゆるふわパーマをかけたわけではなくてただの天然パーマ。しかもかなり手強いやつでストレートをかけても一週間もすれば戻ってしまう。私のコンプレックスのひとつである。

「佐藤様の契約書を間違えてシュレッダーにかけてしまいました。すみません。本当に申し訳ありません」

頭を下げたまま自分のミスを正直に謝る。そして、すぐに落ちてくるであろう大きな雷に備えて身体をこわばらせた。けれど、それは一向に落ちてこない。代わりに肩にポンと優しく手を乗せられた。

「雛子ちゃん、またドジしちゃったの?」

その声に「え?」と思って顔を上げるとそこにいたのは御子柴さんではなかった。

「え、あれ、佐原さん!?」

「うん。そう、俺」

にこりと微笑みながら自分のことを指差すこの男性は佐原一樹(さはらかずき)さん。御子柴設計事務所で働く建築士の一人で御子柴さんと同い年の三十五歳。いつも仏頂面で愛想の欠片もない御子柴さんとは正反対に朗らかな性格の優しい笑顔の持ち主だ。
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