堅物社長にグイグイ迫られてます
やっぱりこれは私一人で食べよう。

そう思い至ったとき、ちょうど玄関から扉の開く音が聞こえた。御子柴さんが帰ってきたみたいだ。

私は慌ててカレーの入った鍋に蓋をする。それと同時にリビングの扉が開き、ジャケットを腕にかけた御子柴さんが入ってきた。

「おかえりなさい」

キッチンからそう声を掛けると、一瞬私へ視線を向けた御子柴さんが「ただいま」とボソッと返してくれる。

それから御子柴さんはジャケットをソファの背もたれにそっと投げると、カバンからパソコンと書類を取り出してローテーブルの上に置いた。

「ん?なんかうまそうなにおいがするな」

そう呟いた御子柴さんが私のいるキッチンの方へと視線を向ける。

「もしかしてカレーか?」

気付かれてしまったようだ。鍋に蓋をしたところでリビングに充満するカレーの匂いまで消せなかった。

「はい。食べようと思って作ったんですけど」

「俺の分もあるのか?」

「えっ、……えっと、はい」

ありますけど、と私は小さな声で答える。
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