堅物社長にグイグイ迫られてます
「俺も一緒に謝ってあげようか?」

落ち込んでいる私に佐原さんがそっと声をかけてくれる。

「そうすれば悟もそんなには怒らないかもしれないし」

気難しい性格の御子柴さんだけど、大学時代の同級生で付き合いの長い佐原さんのことはとても信頼しているのか彼の言う事だけは素直に聞き入れることが多い。

なので、私がミスをして御子柴さんに怒られるたびにそれを見兼ねた佐原さんが私たちの間に入り、御子柴さんの怒りを抑えてくれていた。

正直、今回も佐原さんの助けを借りたい。でも、前回ミスしたときも、その前にミスをしたときも、いつも助けてもらってばかりなので、さすがに毎回毎回佐原さんに庇ってもらうのは申し訳ない。悪いのはミスをしてしまった私なのだから。

「大丈夫です。ひとりでしっかりと謝ります」

顔を上げてはっきりとそう言ったつもりだったけれど、佐原さんは心配そうな顔で「本当に大丈夫?」と確認してくる。そんな彼に私はもう一度「大丈夫です」と力強く告げた。

「まぁ、見てられなくなったらいつもみたいに助けるよ」

佐原さんの手が私の頭をポンポンと優しく撫でる。

御子柴さんと違って佐原さんはいつも私に優しくしてくれる。だからうっかり好きになってしまいそうになるけれど、佐原さんは大学時代に知り合った奥様と去年結婚したばかりの新婚さんだ。

佐原さんみたいな素敵な人が旦那様ならきっと毎日穏やかで幸せな生活を送れるんだろうなぁ。なんて、佐原さんの奥様を羨ましく思っていると、突然、入口の扉がバンと大きな音をたてて勢いよく開いた。
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