堅物社長にグイグイ迫られてます
「それで、どこに引っ越したの？」

佐原さんに聞かれたので引っ越し先の地名を答える。

「そこなら悟の家と近いよね」

「えっ……あ」

そう言われて気が付いた。引越し先を聞かれたので正直に御子柴さんのマンションが立つ地名を教えてしまったけれど、そういえば御子柴さんから今回の同居の件について佐原さんには内緒にするよう言われていたんだった。

「え、あ、そうなんですね。知らなかったな」

偶然を装いながらコーヒーを一口含んだけれど、

「あっつ」

「大丈夫。雛子ちゃん」

「は、はい」

つい動揺してしまい、熱いコーヒーを一気に口の中へ流し込んでしまった。舌がヒリヒリする。

しばらくして落ち着いてから今度はゆっくりとコーヒーを口に含んだ。ごくんと飲み込みながら、そういえばと話題を変える。

「佐原さん。御子柴さんって本当に彼女いるんですか？」

先週の金曜日、御子柴さんが珍しく仕事を定時で切り上げて帰宅した理由を佐原さんは可愛い彼女とデートだと言っていた。

でも後で御子柴さんにそのことを話すと彼女はいないと否定されてしまった。今のところ御子柴さんの方が真実を言っている気がする。そうなると佐原さんが嘘を吐いていることになるけれど。
< 98 / 300 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop