卒業します
「ただいま…………。
上がって。」

日本家屋という表現がピッタリの、趣のある佇まい。

門扉の前に車が停まると、自動で開くのまでうちと同じ。

やっぱりこの人も、私と同じ生活環境だ。

車を停めて、玄関につくと

年配の女性が出迎えてくれた。

「お帰りなさいまし、春人坊っちゃん。」

「うん、ただいま。
この子、今日ウチに泊めるからよろしく。」

「まぁまぁ、寒いでしょ。
直ぐにお風呂の用意をしましょうね。
その前に、タオルタオル!」

そう言うと、バタバタと奥に消えていき

次に出てきた時には、ふかふかのバスタオルを手に持っていた。

ふわりと肩にかけてもらうと

石鹸の良い香りに包まれて、悲しみから少し解放される。

「さぁ、こっちに来てください。
ゆっくりお風呂に入って、よぅ~く温まって下さいね。」

多岐さんと呼ばれた女性に案内され

見ず知らずの人のお家でお風呂を借りることになった。

さっき誠ちゃんに失恋して泣いてたのに………。

あまりの展開に、笑いが起こる。
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