卒業します
それでも、物怖じすることなく

私を乗せた車が、門の前に到着すると直ぐ

まだ、着替えも終わらない私の元へ

『かなちゃん、あそびましょう!』と駆けて来てくれるお兄ちゃん。

それは、私の記憶の残らない赤ちゃんの時からの習慣でした。

そうして

ふだん経験することのない冒険の世界に

私を連れ出してくれたのです。




お寺の境内でする鬼ごっこ。

駄菓子屋さんのくじ付きイチゴ飴。

お兄ちゃんが野球するのを、ただ見ているだけの日もあるけれど。

お母さんが迎えに来るまでの1時間が…………

私が私である、唯一の時間だったの。

帰ってしまうと、またお嬢様に戻る…………。

ピアノにバレエ、バイオリンに英会話。

毎日毎日…………………

好きが何かさえ感じれないまま、ひたすらお稽古をしているだけ。

お爺ちゃんやお父さんの期待に応えることが

私の使命だと思っていた。
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