夏の終わりとアキノソラ
「いらっしゃい!」


いつもと変わらない大将の声に、少しホッとする。


私はいつものように、一番奥の端っこのカウンター席に一人で座った。


「おっ、汐ちゃん、また彼氏と別れたのかい?」


「んー。いつものちょうだい。」


「あいよっ!」


居酒屋ふくすけ。

3年前に彼氏と別れた日にたまたまみつけて依頼、別れると必ずここに来てビールと魚のゆうあん焼きを注文する。

ゆうあん焼きは、ゆずの香りが酸っぱくて、失恋の心にはピッタリだな、などと勝手に思っている。
大将の料理は、本当においしい。


私、広野汐(ヒロノシオ)は、今年、大学を卒業した23歳。現在は、特に何をするでもなくアルバイト生活をしている。いわゆるフリーターだ。


でも決して適当に生きてるわけじゃなくて、ただ自分のやりたいこと、できることがわからないだけ。


そこそこ一生懸命生きてはいる、と思う。


「へい!お待ち!」


私の前にいつもの料理がならべられる。

「ありがとう。」


「しっかし、汐ちゃんみてーなべっぴんさんを振るなんて、馬鹿な男がいるんだなー。信じられねー世の中になったもんだ。」



「別にいっぱいいるよ。大将、今日のも美味しい!」


「そうか!うめーか!今日のはカズが焼いたんだよ。おぅ、カズ。汐ちゃんがうめーってよ。良かったなー。」



大将が奥にいるカズにそういうとカズが「どーも」と無愛想な返事をした。
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