夏の終わりとアキノソラ
「カズ…私、もう行くね。」


ごめんね、は言わなかった。言葉なんか、何の意味もないと思ったから。


カズの香りでいっぱいの部屋は、私の心にひどくしみた。


気を引きしめて。
立ち上がろうとしたときだった。


グィッ

「っ!」


急に寝ているはずのカズに腕をつかまれ、ベッドの上で抱き締められた。


自分の状況がわからず、バタバタと暴れながら必死にカズを呼ぶ。

「ちょっ、カズっ!離し−『行くなよ…』」




え…?
消えいりそうな、寝言のようにも感じるカズの声。しばらく沈黙のあと、
『いろよ、ここに、。汐…好きだ、愛してる、』
耳元でささやかれ、更に強く抱きしめられた。



神様、お願いだから、夢なら覚めないで。



カズは酔っているから明日には覚えていないかもしれない。でも、私を満たすには十分で、

もう溢れる涙と自分の気持ちはとめられなかった。
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