53回君を抱いてわかったこと
私
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私は私が信じられない
だって私が毎週会う男が8歳も年下なんて誰も思わないだろうから
私と彼の出会いは数ヶ月前
たまたま仕事が休みだったから普段は乗らない電車に乗ってぶらぶらと買い物に出かけていた
帰る電車の中は席もガラガラで疲れ切った人々がスマホや本を片手に過ごしていた
電車をおりてすぐしゃがみ込んだ男の子を見つけて放っておこうとは思えなかった
これも仕事柄なのかな
どうしたの?大丈夫?って声をかけると口元を押さえて今にもなにか吐き出したいのを堪えていた
私はすぐにお酒のせいだと察して、カバンの中の黒いビニール袋を取り出し男の子に差し出した
男の子はその袋に勢いよく嘔吐し口の中が気持ち悪いと伝えているかのように苦笑いをした
電車に乗る前に買った水を手渡し、なんて準備がいいんだと自画自賛していた
男の子の気分が戻ったところで、タクシーを拾い、同行
君いくつ?その質問に男の子は19ですと静かに答えた
大学生だなとすぐにわかったし、病院に送るほどではないことにほっとした
その後も普通に会話できたし、その子を家まで送ってそこから私もタクシーで帰ろうと考えていた
その時はただの少年だったし、何やってんだかって気持ちで呆れていた
男の子の家に着いて今度は自分の家までタクシーを走らせて、高くついたな〜なんて考えていた
寝る頃にはもう男の子のことなんて頭になかったし、明日も仕事かと考えるばかりだった
これが私たちの出会ったきっかけ
連絡先も名前もなんにも知らないし次の日にはもう仕事のことしか考えてなかったから何にもないと思ってた