新月の夜はあなたを探しに
でも、これを葵音さんが読んでいるという事は、私はきっと弱さに勝ったんですね!
葵音さんを救えたんですね。
恋人が出来て、私は強くなれたんですね。
きっと、葵音さんは怒ってしまうかもしれないけれど、私は葵音さんを守れて幸せでした。
恋人として素敵な時間を過ごしてくれてありがとうございました。
私の荷物は免許証の住所に送ってください。葵音さんから貰ったお金はほとんど使わずに残っているので、平星家に渡してもらえると嬉しいです。
それと、イルカのぬいぐるみと白のワンピースは私と一緒に寝かせてください。
イルカのストラップと手作りのキーホルダーはきっと壊れちゃってるかな………。
葵音さん、出会ってくれて、好きになってくれて、ありがとうございました。
私は星空と共に見守っています。
平星 黒葉』
パタンと、日記が閉じられる。
あぁ………なんて勝手な奴なんだ。
勝手に運命の人と決めつけて、家に上がり込んで、俺を惚れさせて、恋人にまでなって、そして俺を守って死のうとしていたなんて………本当に自分勝手な女だ、と葵音は思うようにしていた。
けれど、思い浮かぶのは彼女の優しい微笑みばかりだった。
葵音は生きてきた中で、この数ヵ月がとてもキラキラしていたし、世界が鮮やかに色づいたように感じていた。
その証拠に作っていたジュエリーも、いつも以上に好評だった。
こんなにも特別な存在になったのに、大切で、最愛の人だと誰にでも言えるほど好きだったのに………。
死のうとしていたなんて。
「なんで話してくれなかったんだよ……….。俺はそんなに頼りなかったか?俺は、黒葉を守りたかったよ。」
脳裏に焼き付いている、あの日葵音を押した手を必死に掴むように、葵音は何もない空間に右手を伸ばす。
けれど、同じように何も掴めずにそのまま腕が白い布団の上にドザリと落ちた。
彼女に触れたい。
彼女の声が聞きたい。
彼女の笑顔が見たい。
そんな事を思い、葵音はまた涙を流していた。
泣いてばかりだなと思いながらも、涙を止めるすべを葵音は知らなかった。