新月の夜はあなたを探しに
作業場は、大きな窓がある。葵音は、時々窓から見える景色を眺めるのが好きだった。
小さなマンションの一室だが、管理人が庭いじりが好きなのか、とても綺麗に手入れされた草花が見られるのだ。
今では、春の可愛らしい花たちが先、少しずつ緑も増えてきていた。
そんな景色が夕焼けで赤く染まる時間になった頃だった。
作業場のドアがゆっくりと開いた。
さすがの葵音は、少し休憩しよう、そして彼女の様子を見に行こうと思っていた頃だったので、ドアが開いた事に気づくことが出来た。
「あぁ………起きたか。」
「あの、助けていただいて、ありがとうございました。」
「もう、大丈夫なのか?」
「はい。たぶん………。」
女がドアを開けたままの場所で頷くと、恐る恐る作業場に足を踏み入れた。
この場所に誰も入れたくなかったけれど、葵音は何故かそれを許してしまった。
いつもとは違う気持ちにさせられる彼女が、やはり不思議に感じた。
「あの、アクセサリーを作っていたんですか?」
「あぁ……。そうだよ。」
「見せてもらってもいいですか?」
「………あぁ。」
葵音はテーブルに視線をずらして、彼女にそれを見るように促した。すると、彼女は顔を近づけてそのリングを見つめた。
急に彼女との距離が近くなる。
目の前には、色白で小さい横顔と、サラサラとしたストレートの髪。
その髪を耳にかけながら、彼女はうっとりとした目で見つめてた。
「こんなに繊細で綺麗なリングが作れるなんて……すごいですね。」
リングには触れずに、自分が動きながら模様を見ていた。
この女はどうして初対面の男の家にいたのにこんなに安心しきっているのだろうか。
ナンパをしたり、男遊びをするような女には見えない。人は見た目によらないとも言うけれど、葵音はどうしてもそんな風に感じられなかったのだ。
それは彼女の一つ一つの仕草や言葉、そして態度から違うと思うのだ。彼女は、とても洗練された綺麗な仕草をしており、育ちの良さがあったのだ。
けれど、どんな女が何故コーヒーショップに居座り、ナンパのように声を掛けて、そして独り身の男の部屋に上がり込んでいるのか。
それが理解しようにも出来なかった。