新月の夜はあなたを探しに
「でも、葵音さんがしている月のネックレスはないですね……。それに、星がモチーフのものも。」
「これは、俺が1番初めに作ったものだから、売り物ではないんだ。それに星のアクセサリーは………俺がダメなんだ。」
「ダメ、なんですか?」
「あぁ………星にはいい思い出がなくて。正直作るのが苦手なんだ。」
葵音は、月のネックレスを手の中で転がしながら、苦笑を見せながら彼女にそう話した。
説明するつもりはない。けれど、思い出すだけでも苦しくなる。
星のアクセサリーなど作りなくもなかった。
「じゃあ、私がお願いしたのは、作れないのですね。」
「悪いな。それに、作れたとしても俺のジュエリーは高いぞ。」
「…………え。」
「これでも人気者だからな。宝石なしでも、この値段だ。」
引き出しから電卓を取り出して、金額を表示して彼女に見せると、黒葉は絶句していた。
「こ、こんなに………でも、確かにその価値はあるものばかりですし。それに貯めたお金があれば注文できる……。」
電卓の数字を見つめながら、ブツブツと何かを呟いている黒葉を葵音は微笑みながら見てしまう。
そこまでして、自分の作ったアクセサリーを欲しいと思ってくれるのはありがたい事だし、嬉しいことだった。
気づくと、彼女の頭を優しく撫でていた。
ハッと自分がしてしまったことに気づいた頃にはすでに遅く、彼女はきょとんとしていたけれど、頬をほんのりと染めながらも、にっこりと笑っていた。
「なんか、頭を撫でられるって安心しますね……こんな感覚初めてです。」
「そうなのか?」
「はい。」
目を瞑り、その感触をうっとりとした顔で堪能する黒葉を見て、葵音はドキッとしてしまう。
やはりこの女といると調子が狂うのだ。
彼女の一つ一つの動作が葵音を胸を高鳴らせ、そして釘付けにする。
謎ばかりで、ナンパをして家まで上がり込んでくる女に、どうしてここまで心を惹かれてしまうのか。
やはり、今の俺はどうにかしているんだ。
葵音はそう思った。