新月の夜はあなたを探しに
「葵音さんの言う通り、やはり私が急すぎたんですよね。……恋愛したことがないので、ちょっと焦りましたし……大丈夫だと安心しすぎてしまいました。」
「大丈夫って、何が?」
「秘密です。」
苦しそうに微笑む彼女は、とても儚く見えた。
秘密ばかりで、理由も言わないのにまっすぐ自分だけを見てくれる彼女を、葵音は不思議に思った。
けれど、それに彼女だとそれを悪い気がしないのだ。
それが恋なのかはわからない。
けれど、惹かれ始めているの、隠しようもない事実なのだ。
黒葉を探し回ったことが、いい証拠だ。
葵音は彼女の横に座り、黒葉の方をを見つめた。
「うちに来るか?」
「え………。」
彼女はポカンとした横顔から、ゆっくりとこちらを見た。信じられないと言った顔で葵音を見返している。
「何だよ。おまえが居たいって言ったんだろ。」
「そうですけど……さっきは、断りましたよね。どうして、そんなすぐに。」
「……放っておけない……から。それに、家事やってくる人が欲しいと思っていたからな。それをやってくれるならいいかなと思ったんだ。」
かなり苦しい言い訳だとはわかっている。
けれど、葵音にはまだ恋をしようとする勇気はなかった。彼女の傍にいたいとは思う。けれど、まだ怖かったのだ。
昔と同じようになるのが。
人を信じないと恋愛は出来ないとよく言うが、本当にその通りだと葵音は思っていた。
彼女の反応を恐る恐る見る。
すると、目を輝かせて、葵音の腕をがっちりと掴ん見ながら葵音を見上げていた。
「やりたいです!やらせてください!」
葵音の思いに気づいているのか、気づいていないのかはわからない。
けれど、彼女の可愛らしい反応を見て、葵音はホッとした。
「あぁ。じゃあ、よろしく頼む。」
満面の笑みを見せる黒葉を見つめながら、葵音は少しだけ楽しみになっていた。
これから、黒葉との同居生活が始まるのだ。