新月の夜はあなたを探しに
予想通りの言葉が返ってきたので、葵音は小さくため息をついた。
同じぐらいの歳の男女が一緒の部屋で、そして同じベットで寝るというのがどんな事を意味しているのか、わかっていないようだった。
それとも、わかっていてわざとなのか。
「男女が同じベットで寝るって事がどういう事かわかってるのか?」
「はい!ドキドキしますよね。」
「………そうじゃなくて。」
葵音はグッと黒音に近づいて顔を間近に寄せた。彼女の大きくて澄んだ瞳が目の前にくる。呼吸も、感じられるほどだ。
「こうやってすぐ近くにいることになるんだ。キスしたり、それ以上だって出来るんだぞ。」
そう言うと、黒葉は目をぱちくりさせて、葵音の瞳を見返してきた。
彼女は、嫌がって逃げるだろうか。それとも、恥ずかしくなって固まってしまうか。軽い男だと怒るか。
どんな反応を見せるのか、葵音はじっと彼女の様子を伺った。
けれど、黒葉は葵音の予想外の行動をしたのだった。
「っっ!!」
葵音が次に感じたのは、唇に柔らかい物が当たった事だった。
黒葉にキスをされたとわかるまで、葵音はしばらく呆然としてしまった。それぐらい、彼女の行動は突拍子もないものだったのだ。
「おまえっっ……何してるんだっ!?」
「私は、葵音さんに惹かれてるんです。そんな人にキス出来るって言われるのは嬉しい事なんですよ。嫌われてないんだ、キス出来るぐらいには認められてるんだって。」
「……キスぐらい誰とでも出来るだろ。」
「嫌いな人には出来ないですよね?」
彼女の恥ずかしそうに頬を染めながらも真剣に話す表情を見つめながら、彼女の問い掛けに黙ってしまう。
「……葵音さんとならキスしたいって思えるんです。でも、それ以上はダメです。」
「………そんなの生殺しだろ。」
「私のファーストキスで、許してください。」
「………おまえな。そんな大切なのを俺にするな。」
「葵音さんだから、です。」