新月の夜はあなたを探しに
「あの黒髪美女さん、またずっと居座るのかな?もう1週間以上だよな。」
「ちゃんと、コーヒーにランチ、ディナーまで食べくれるからいいけど。ずっとあの交差点ばかり見てて何やってるのかしら?」
「ミステリアスでいいよなー。」
「……美人だからいいんでしょ。」
そんな話しを聞きながら、葵音は「不思議な子なんだなー。」と思い、コーヒーを一口飲んだ。
夜から見ていなかったスマホを見ると、何件かの仕事の依頼が入っていた。どれも急ぎのもののようだ。
「これは、仮眠とってすぐに作業しないとまにあわないな。打ち合わせは、明日……。今日も忙しいな。」
葵音は、スマホを眺めながら仕事のスケジュールや作業の工程を頭の中で整理していく。
忙しく考えているうちに、不思議な女の事はすっかりと頭から抜けてしまっていた。
葵音の仕事は、ジュエリー作家だ。
超高級有名ブランド「one sin」のデザインをしたことから、一気に有名になり、葵音が有名なジュエリー作家の仲間入りをした。
けれど、彼は一つ一つ自分の手作りにこだわっており、「one sin」のデザインを手掛けた事から注文が殺到しているけれど、それでも丁寧に時間をかけて作り上げる事を徹底していた。
そのため、葵音にデサインや制作を注文すると、高い値段がついたけれど、それが更にに富裕層には「珍しくて価値がある。」と人気になっているようだった。
葵音のデザインはとても細かく繊細なのが売りだった。そのため、女性向けの贈り物が多かった。
今日も、若い男性からの依頼を受ける事になっていた。奥さんの誕生日プレゼントにすると言っていた。
話を聞いて、デザインや宝石、そして予算を相談する。そして、数週間後に数個のデザインと共に再度、打ち合わせをして制作に入る、という流れだった。
毎日ほとんどを自宅兼作業所で過ごす。
依頼があれば、お客に会いに行くこともあるけれど、ほとんどが来てもらうことになっていたし、忙しく家にこもりきりなのだ。
けれど、週に1度ぐらいは外に出て1人や時々友人とぶらりと飲みに出る。
そして、声を掛けてきた女と過ごすのだ。
葵音は恵まれた容姿からか異性にモテていた。茶色のふわっとした髪に、髪と同じ色の瞳に切れ長の瞳、長身細身の身体。そして、明るい性格から女は絶えなかった。
けれど、最近は恋愛をするのも面倒になり遊ぶ相手を見つければ、それで満足していた。
相手もそういう男を探しているので、お互いに戯れたらおしまい。
それが1番面倒なこともないと葵音は考えていた。