新月の夜はあなたを探しに
「よし、行こうか。今行けば、イルカのショーに間に合うぞ。」
「イルカ!楽しみです!」
跳び跳ねんばかりの喜び方に、葵音は思わずくくくっと声を出して笑ってしまう。
「葵音さん?」
「いや……まだ水族館にも着いてないのに楽しそうだなって思って。」
「葵音さんと初めての遠出ですよ?しかも、水族館!楽しみなんです。」
「そうか。」
葵音は彼女の頭をポンポンと撫でながら目を細めた。
彼女はなんて素直なのだろうか。彼女の純粋さがとても眩しく見えたのだ。
車で水族館に向かい、水族館に入ると、黒葉はただの女の子になっていた。
いつもは家事をして、不器用ながらジュエリーを作ろうとし、そして、星を見て泣きそうになる、不思議な女だった。けれど、ここにいるときは全てを忘れて楽しんでいる様子だった。
入場券をネットで買っていると「私が買う予定でした!」と怒ったり、水槽ひとつひとつの説明書きをじっくりと読んで「こんなにかわいいいのに他の魚を食べちゃうんですね。」と感心したり、「綺麗ですねー!」とキラキラした瞳で食い入るように見つめたり。水の中の世界を存分に楽しんでいた。
「イルカのショーはこっちでしょうか?」
「あ、黒葉……そっちは……。」
彼女が先に走り出した瞬間、団体客が通り、葵音と黒葉の間を通った。それに気づかずに彼女は奥へと行ってしまう。
「………あいつ、はしゃいでるのがいいが、迷子になるなよ……。」
と、足止めをされた場所でため息混じりに葵音が呟いた。
やっと道が通れるようになった頃には彼女の姿は見られなくなっていた。
「はぁー………イルカのショーのところに居るといいんだけどな。」
葵音は小走りで彼女がいるであろう場所へと向かった。
そんなに離れた場所ではなかったので、ショーを行う広場へはすぐに着いた。
すると入り口で、キョロキョロと周りを見たり、スマホを見ている黒葉の姿があった。
「黒葉。」
「あっ………葵音さん………。」
黒葉の前に葵音が立つと、泣きそうな顔をしながらこちらも見た。そして、安堵した顔を見せて、何度も頭を下げた。