新月の夜はあなたを探しに
「ごめんなさい!はしゃぎすぎました。……迷子になるなんて、恥ずかしいです。」
「黒葉、俺は別に怒ってない。」
「………そう、ですよね。葵音さんは、優しいから怒らないですよね。」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、ホッとした表情で持っていたスマホと地図をギュッと握りしめてた。
彼女は、なぜそんなにも怯えてしまうのか。
嫌われるのを極度に気にするところがある。
少し見失っただけで、怒るはずもないというのに。
先ほどのようにイキイキと笑ってほしい。
黒葉が安心する方法を葵音は1つ知っていた。
「ほら。……こんな大きな迷子は恥ずかしいだろ。」
彼女に向かって、手を差しのべる。
「まだイルカのショーには時間があるが、コーヒーでも飲みながら休憩して待っていようか。」
「はい……。」
はにかんだ黒葉の笑顔は、いつもの大人びた彼女とは全く違う、子どものように無邪気なものになる。
その笑顔が葵音を安心させるのだ。
いつもより少し温かくなった彼女の手を握って、安心しているのは自分なのかもしれないな、と葵音は思った。