新月の夜はあなたを探しに
12話





   12話





 「すごかったですー!イルカってすごいんですねー……。」


 イルカのショーの余韻に浸りながら、黒葉は感嘆の声を上げていた。

 
 「イルカのショー見たことなかったのか?」
 「そうですね。水族館は小学校の遠足で行きましたが、それからは行ったことがないので。」
 「………そうか。なら良かったな。」


 水族館に行ったのが遠足だけとは珍しいだろう。
 家族で行く事もあれば、友達や恋人と行く事も多い定番スポットだ。
 家族の事は、ここに居たいと言われた時に家族とは何かあるのかと思っていたので、深く聞くことは躊躇われた。それに、恋人も葵音にファーストキスだと言った事から、恋人もいなかったのだろうとわかる。
 美人で家事もできて、性格も問題ない。少し問題があるとすれば、ミステリアスすぎる所ぐらいだろう。
 友達がいないというのも、何となく聞きにくい。

 そうなると、無難な言葉しかかけられなかった。


 「イルカはとっても頭がよくて、鏡を見ても自分だとわかるし、他のイルカとのコミュニケーションも取れるって言ってましたね。」
 「だから、あんな事が出来るんだろうな。」
 「いいな………生まれ変わったらイルカになりたいな。そしたら、葵音さんの事もわかるし、お話も出来るし、一緒に海を泳げるんですよね。」
 「俺もイルカになるのか……?」
 「はい!嫌ですか?」
 「………それもいいかもな。」


 温かい海の中で自由気ままに泳ぐのも悪くない。そんな事を想像しながら、葵音はつい笑ってしまった。


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