新月の夜はあなたを探しに
葵音は車を運転しながら、横目で黒葉を見ると、ピンクのイルカのストラップを選んで着けていた。
そして、付け終わったスマホを自分の目線まで持っていくと、車のライトが当たりキラキラと光るストラップを、とても嬉しそうに眺めていた。
「可愛いです……!」
「よかったな。」
「はい…………あの……。」
「ん?」
黒葉が話し掛けてきた時、調度信号で車を止めていた。
葵音は、黒葉の方を向きながら、彼女の問い掛けに返事をすると、少し恥ずかしそうにしながら、まだ使っていないストラップを葵音に差し出したのだ。
「葵音さんも、スマホのストラップ、何も付けてなかったですよね?」
「あぁ、そうだったな。」
「………この水色のイルカ、付けてみませんか?」
真っ赤になりながらそう言う彼女を見て、葵音は「自分からキスをするぐらいなのに、こういうのはまだ恥ずかしいんだな。」と、思いながら微笑ましく感じた。
「お揃い、にしたいのか?」
「っっ!!……お揃いにしたいです。」
敢えて「お揃い」という言葉を強調すると、黒葉は更に頬を真っ赤にさせながらも、はっきりとそう言った。
葵音はジャケットのポケットから自分のスマホを取り出すと、黒葉に向けてそれを差し出した。
「これ。」
「………はい。」
差し出されたスマホを黒葉が受け取ると童子に、目の前の信号が青に変わった。
葵音はハンドルを持ち、前を向いて運転を始める。
「俺のスマホに、それを付けてくれないか?」
「………え、はい!」
黒葉の表情が見えなかったのは残念だったけれど、葵音には彼女の顔を見なくても、どんな顔をしているのか容易に想像出来た。
花が綻ぶような柔らかな微笑みだと。
黒葉は、しばらくの間暗闇でストラップを付けるのを苦労していたようだったが、2人分を着け終わると、両手で2つのストラップも持ち、ゆらゆらと揺れる2匹のイルカを嬉しそうに見つめていた。
黒葉が持つ2匹のイルカは、揃って光る夜空を楽しそうに泳いでいるようだった。