新月の夜はあなたを探しに
きっかけは続くものだった。
黒葉の事を知りたい、と改めて思い始めた数日後。
「葵音さん、買い出しに行ってきますね。」
作業場を覗いた黒葉は葵音に声を掛けた。
エプロンを外しながらそう言い、黒葉は出掛けていった。スーパーや薬局などに行くというので、時間はかかりそうだった。
葵音は、それがきっかけで集中力が切れたので、コーヒーを淹れようと作業場から出た。
リビングを歩いている時だった。
彼女は慌てていたのか、黒葉の部屋のドアが大きく空いていた。
中の様子が丸見えになっており、「プライベートも何もないな。」と、葵音は思った。
それなのに、その部屋に誘われるように葵音はゆっくりと黒葉の部屋に入ってしまった。
他人の部屋に勝手に入るなどルール違反だと分かっている。
けれども、心の中では「黒葉の事が何かわかるかもしれない。」と思ってしまい、その足を止めることは出来なかった。
寝室と同じ広さの部屋には、ほとんど物がなかった。布団はしっかりと畳んであるし、机にはほとんど物が置いてなかった。
服も数少ないはずで、閉まっているクローゼットの中に入っているのだろう。
机の上には、水族館のパンフレットや葵音があげたアクセサリーの本が置いてあった。
そんな殺風景の部屋だったけれど、机の一番上の引き出しが少し開いており、そこには箱が入っていた。
葵音は恐る恐るその引き出しを引いて、箱を取り出した。
そこには、ノートが1冊と免許証が入っていた。