新月の夜はあなたを探しに
葵音と黒葉は、昼食を食べた後に近くのスーパーや薬局へと向かった。
洗剤や柔軟剤、シャンプーや飲み物など、たしかに重いものが多く、今まで黒葉がこれを1人で買いに行っていたのかと思うと、任せきりにしていたのが申し訳なくなってしまった。
仕事とは言え、かなりの重労働だろう。
「すみません、葵音さん。重いですよね。まとめて買ってしまって……。」
「これぐらいは大丈夫だよ。それより、今度から荷物が増えそうな時は呼んでくれれば行くから。」
「いえ!葵音さんはお仕事がありますし。これは私の仕事です。今回はお願いしちゃいましたけど………。」
「気分転換に外にでたい時もあるからな。無理な時は断るし。まぁ、時々聞いてくれればいいいから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
黒葉は、困りながらも嬉しそうに笑っていた。きっと空いている片方の手を繋いでいるからだろう。そう思った。
「あぁ、それと次のジュエリー作りだけど…………あっ……。」
「雨ですね。」
「本降りになる前に走るか。家まで少しだ。」
「はい!」
葵音と黒は手を繋いだまま小走りで走った。
途中から彼女を引っ張るようになっていたけれど、何度か振り向くと黒葉は楽しそうに笑っており、葵音もつられて微笑んでしまった。
雨に降られても楽しいと思えるなんて、何年ぶりだろうか。
そんな事を思っていると、雨はどんどん強くなってきた。
「やばいな………。あと少し走れるか?」
「私は大丈夫です。」
「よし!じゃあ、頑張ってくれ。」
そうやって、2人は雨足が強くなった道をどんどんと走った。
服はびしょびしょに濡れて肌に張り付き気持ちが悪いし、春の雨で少し寒さも感じる。持っている荷物も重くなり、走っている事で呼吸も辛い。
それなのに楽しくなってしまう。
まるで青春映画みたいだな、なんてバカらしくて葵音は笑ってしまいそうになるけれど、繋いだ手から感じるぬくもりを感じているだけで、幸せで口元が緩んでしまうのだ。