新月の夜はあなたを探しに
「はぁー………結構濡れたな。」
「そうですね……一瞬であんなに降るなんてビックリしました。」
息を切らせながら自宅に駆け込み、荷物を玄関に置いた。
「黒葉……大丈夫か?…………。」
「…………はい。濡れましたけど着替えれば大丈夫です。」
黒葉は顔に張り付いてしまった黒々とした髪を避けながら、微笑みながらそう言った。
けれど、その時、葵音は黒葉に釘付けになっていた。
濡れた髪に、頬を赤く染め、服は肌に張り付いて、肌の色が透けていた。
色っぽい彼女の姿に本来ならば、欲情してしまう所なのかもしれない。
けれど、葵音は違った。
隣にいる彼女がその時何故かとても小さく見えたのだ。彼女が少し冷たそうに体を縮めていたからなのか、髪も服も張り付いていたからなのかはわからない。
彼女はこのまま水に溶けていなくなってしまうのではないか……そんなありえない事を思ってしまった。
そして、気づくと彼女に手を伸ばし強く抱き締めていた。
彼女の肌がとても冷たい。
それを温めるように、強く強く抱きしめた。
「あ、葵音さん………どうしたんですか?」
「黒葉………キスしてもいいか?」
「………え…………っっ!!」
返事を待つことも出来ず、葵音は彼女に強く口づけをした。
突然の事で、黒葉は驚いていたようだったけれど、葵音は自分の気持ちと行動を止めることが出来なくなっていた。
彼女がいなくなってしまう。
ただ、それが怖くて抱きしめてキスをしていた。
深く長いキスをした後も、気持ちの高まりは収まることもなく葵音を襲った。
それを我慢する事なく、今度は黒葉の首筋を舐めて、そのまま顔を下ろしいき、今度は鎖骨部分にキスを落とした。
すると、感じたことのない感覚だったのか、黒葉の体が小さく震えた。
「葵音さん………。」
その声を聞いてしまうと、また体に熱を感じてしまう。
彼女はどうすればいなくならないのか?
1つの考えが浮かんで、葵音は衝動的に黒葉の体を強く吸っていた。「あっ……。」という彼女の聞いたことのない声が耳元で聞こえる。けれども、それさえも無視して同じ場所を何度も吸い付くと、彼女の白い肌に赤い跡が付いた。
それを見た瞬間に、ハッとなり葵音は黒葉から離れた。
「悪い………。俺はタオルで体拭けばいいから。おまえは風呂入って体を温めた方がいい。」
「あ…………はい。ありがとうございます。」
葵音は彼女に背を向けたままそう言うと、躊躇いと恥じらいの声が聞こえ、そのまま小走りで風呂場に駆け込む彼女の足音が聞こえた。
「はぁー………何やってんだ。こんなに耐え性もない独占欲の固まりの男だったのか、俺は………。恋人でもないのに………。」
濡れた髪を乱暴にかき上げながら、独り呟く。
葵音は今の自分の行動をすぐに後悔し、大きくため息をついたのだった。