新月の夜はあなたを探しに
「で、俺に何か用事があるのか?」
「あの………そのネックレス。」
彼女は細い指で葵音のネックレスを指差した。そこには、葵音が作った月がモチーフのネックレスがあった。
シルバー球体にしっかりとクレーターの模様も入っており、周りには星が廻っている姿がわかるようになっていた。
「あぁ……もしかして、星はありますか?ってこの事か。」
葵音がそれを手に取って見つめながら、自分で納得するように言うと、女もコクコクと頷いている。
「これはオーダーで作ったものだからな。……もしかして、俺の事知ってるのか?」
「……え?」
「え?って………俺がアクセサリー作ってるって知ってて声掛けてきたんじゃないのか?」
「いえ………。」
彼女は、困りそして悲しんだような複雑な表情を見せながら言葉を濁した。
葵音は、彼女を見つめながら言葉を待った。
すると、少し考えた後、彼女は葵音を見つめながら雑踏の音に負けてしまいそうな、聞こえるぎりぎりの声で話始めた。
「あの………その月のネックレスを見たんです。たぶん、この交差点で。だから、探してました。」
「探してたって、あのコーヒーショップで交差点見てたのって、俺を探してたのか!?」
「………はい。あの、どうして私が誰かを探してるってわかったんですか?」
「いや、その……俺もその店に入ったことがあったんだ。その時、店員がずっと交差点を見続けている人は誰を探してるんだろう?って噂しているのを聞いて……わるかったな。気分良いもんじゃないよな。」
自分の知らない所で噂をされていると後から知るのは、嫌な気分になると葵音は思い、謝罪をする。すると、彼女は大きい目を見開いて驚き、そしてにっこりと笑ったのだ。
それは、あどけなくそして、純粋な表情だった。そんな微笑みをする人を久しぶりに見た葵音は胸がドキッと鳴るのがわかった。
けれど、その表情はすぐにシュンと落ち込む顔に変わってしまう。葵音は、「コロコロと表情が変わるんだな。」と内心思っていた。