新月の夜はあなたを探しに
「今度、2日ぐらい休みが取れそうなんだ。………一緒にどこかに出掛けないか。旅行でもいい。」
「本当ですか!!嬉しい………初旅行ですね。」
「どこに行きたい?」
「海に行きたいです。あ、泳ぐとかではなく、夜の海に。」
そういえば、彼女は前に海にほとんど行ったことがないと言っていた、と葵音は思い出した。
「じゃあ、海辺で探すか。そういえば、海の近くにプラネタリウムがあるところがあったはずだな。」
「プラネタリウム……。」
星関連の言葉を出すと、彼女は目を輝かせる。プラネタリウムも気になるようで、何も言わなくても「行ってみたい!」という気持ちが伝わってきていた、葵音は思わず笑ってしまった。
目の前の彼女の顔も恥ずかしそうにしながらも、楽しそうなのがわかる。
きっと自分も彼女と同じような顔をしているんだろうなと、葵音は思った。
「プラネタリウムも初めてか?」
「はい。テレビや本でしか見たことないので、どんな所なのか気になっていたんです!星空が見えるんですよね。」
「あぁ、すごい数の星で、明かりがなかったらこんなに見えるのかと驚くと思う。」
「………すごい……見たことのない星もみえるんですね……。」
まだ見ぬ作り物の星空に想いを馳せる彼女を見て、葵音の心は決まった。
「じゃあ、次の休みは海沿いのプラネタリウムで決まりだな。」
「本当にいいんですか?せっかくのお休みなのにゆっくりしなくて……。」
「彼氏なんだ。黒葉とデートさせてくれ。」
「デート………。」
葵音の言葉を聞いて、更にキラキラした瞳になる黒葉は、少し考えたあとに「私も葵音さんと旅行デートしたいです。」と、張り切った声でそう言った。
「じゃあ、今夜は旅行の事を決めような。」
「はい。楽しみですね。………あ、冷やし中華のびちゃいます!」
「あぁ、そうだったな。」
パタパタとスリッパの音を部屋に響かせて走る黒葉の後を、葵音は微笑みながら続いたのだった。