新月の夜はあなたを探しに
「でも、貴方がコーヒーショップに居たならもっと前に出会えてたのかもしれないのですね。」
「……まぁ、今より寒い時期でコートも着ていたからネックレスはなかなか見つからないだろ。」
「そうなんです……真冬はみんなコートを着ているので、なかなかネックレスが見れなくて困ってたんです。でも、見つけられてよかったです。」
その女は目をキラキラさせると、先ほどまで恥ずかしそうになっていたとは思えないほど、葵音にぐっと近づいてきたのだ。
葵音は、彼女がどうしてこのネックレスに惚れ込んでいるのかよくわからなかった。
1度見ただけで、1ヶ月も張り込んでそのネックレスの持ち主を探したりするのだろうか?
しかも、葵音がしているものは1点もののネックレスだ。誰かを大切な人が同じものをしていたから、というのは考えられなかったのだ。
葵音はそう考えると、彼女と話してみたいという気持ちもあるものの、少し怪しいなとも思ってしまった。
「あの、これから少しお話しできませんか?」
「……これと同じものを作ったりは出来ないぞ?」
「それでも構いません。お話ししたいんです、あなたと。」
「なんで初対面同士で、しかも声を掛けられただけなのに、話をしようと思うんだ?」
女性には基本的に優しいが、今回はあえて強い言葉を伝えた。
それぐらい、彼女は不思議だったのだ。
すると、その女は考える間もなく、まっすぐな言葉を返した。
「あなたと話してみたいんです。」
これは、ナンパの文句なのかもしれない。
けれど、葵音はその言葉が、やけに胸に響いた。だが、それと同時に彼女と関わってはいけないという直感も感じていた。
いずれにせよ、普段ならばその時遊べればいいと思ってばかりだったが、いつもとは違う感情を抱いていたのだ。
そのため、葵音は戸惑ってしまっていた。