新月の夜はあなたを探しに
葵音と黒葉は2人でデートをするはずだった。彼女が楽しみにしていたプラネタリウムと夜の海へ行くはずだったのだ。
駅へと向かう途中に、黒葉の様子がおかしくなった。別れの言葉のような事を話始め、葵音は彼女を心配して触れようとした。
けれど、それは叶わず彼女に体を強く押されて、車道へ倒れ込んでしまったのだ。
そこにバイクが向かってきたのだ。
きっと葵音はそのバイクにひかれるか、飛ばされるかされたのだろう。
事故にあって病院に運ばれてしまったのは、葵音にもわかった。
痛さを堪えて首を横にするが、個室なのか隣には誰もいなかった。反対側は窓があり、濡れているのがわかる。
雨が降っているようだ。
今夜は星空が見えないから、あいつは寂しがっているだろうな。
そう思った瞬間に、瞳から涙が流れ落ちた。
どうして、彼女に押されたのだろうか。
彼女がずっと黙って自分のところに居たのは、このためだったのか。
何故、葵音を事故に合わせたかったのか。
それを考えてもわかるはずもなかった。
けれど、わかるのは彼女が強く葵音を押して、事故に遭わせたという事だ。
けれど、どうしても葵音は彼女を責められなかった。何か理由があったに違いないと……。
女々しい考えかもしれない。
女にあんな命の危険がある事をされても、彼女を信じようとしてしまうなんて馬鹿げているのだろう。
今は朦朧とした意識だからこんな事を考えるているのかもしれない。
「黒葉………今、おまえはどこにいるんだ。」
葵音は彼女が傍にいない事の方が辛く、寂しかった。
彼女に会いたい。手だけでもいいから触れて彼女の熱を感じたいのだ。
いろんな事を、考えてしまったからだろうか。葵音の弱った体は、すぐに眠気を感じ始めてしまった。
もしかしたら、黒葉が来てくれるかもしれない。そのために起きていたい。
強く手を握りしめたところで、また葵音の意識は闇の中へと落ちてしまったのだった。