新月の夜はあなたを探しに
累が帰ってしまう前に、彼にひとつだけお願いをした。
「ここが黒葉ちゃんの部屋なんだね?」
「あぁ……近くに行けないけどガラス越しなら見てもいいと言われてるんだ。」
「そうか……久しぶりの対面なんだ。一人で行ってきなよ。」
「…………悪いな、後で呼ぶ。」
累に頼んだのは、黒葉の部屋までの付き添いだった。
やっと集中治療室から出てこれた黒葉に面会の許可がおりたのだ。
けれども、ガラス越しに見るだけで、彼女に触れることすら出来ないのだ。
けれども、彼女に一目でも会えるのは嬉しかった。
出会った日から毎日会い、そして触れていた。そんな彼女と数日ぶりに会うのだ。
事故にあった彼女を見るのが怖くないといったら嘘になる。
彼女に守られて、こうやって歩いてこられるようにまでなった自分が情けなくて、彼女に会って良いのだろうかとも思った。
けれど、フラフラの体で累に支えられながら歩いてでも彼女に会いたかった。
それが、葵音の本心なのだろうと葵音自信感じていた。
ドアに、触れる手が震える。
それが事故によるものなのか、緊張なのか、どちらかなのかは葵音自身がよくわかっていた。
ゆっくりとドアを開けて部屋に入ると、薄いカーテンから入る光を浴びて、浅く呼吸を繰り返す黒葉がそこにいた。
顔にはほとんど傷がなかったようで、いつも葵音の隣で寝ている時のような安らかな寝顔だった。
けれども、彼女の口には呼吸の補助だろうか、大きいマスクのようなものがあり、機械に繋がっている。他にも至るところから機械に繋がる線が伸びており、黒葉が必死に生きようとしているのがわかる。
そして、布団から見える腕や足には包帯が巻かれている。
きっと事故で怪我をしたのだろう。痛々しくて、葵音は目を逸らしたくなった。