虹が架かる手紙
明日、明日が来なきゃいいのに。
明日を嫌って過去に願ったって何にも意味が無いのは分かってる。
いつになっても考えてしまうのだ、
「あの時」私はどうしていればよかったの?
こんな私を置いて時間が経てば今日は終わって明日が来てしまう。
その日の翌日、教室のドアに手をかけて2、3秒止まって息をすっと吸い込む。
ドアを開けるしか私に選択肢はないのに、どうして迷ってるの?
自分に投げかけてみて平気そうに偽ってみるが、私の体は正直だ。
大きく深呼吸して汗が溜まった手でドアを開けてみると雰囲気はいつもと変わらずに私をむかい入れてくれた。
でも、違和感があって周りを見渡すと小滝君の机の上に刻まれた教科書と落書きされたノートが乗っていた。
昨日のことが頭に蘇り、下を向くと『七彩!おはっよ!』と明るい声が前から聞こえてぱっと視線を上げる。
ものすごい笑顔で近づいてくるのは珠里で、昨日のことなんかなかったかのように振る舞われて、動揺してしまう。
いつもはこんな笑顔じゃないのに。
昨日のこと、怒ってるの?
それは何を意味しているの?
『おはよう。』と小さく返すと私の返事に違和感を覚えたのか、『ぁ、あー。あれ?七彩に変な虫がまとわりついていたから、消毒してるの。』と淡々と言葉を発する珠里。
消毒…………
『昨日だって、七彩嫌がってたの自分の耳で聞いてたはずなのに、どっか連れて行っちゃうし。』
『ほんと、それな!近づかないとか言ってたそばから近づいたからね。本当にカス。ね?七彩?』
あれは、私を助けてくれただけでカスとか言わないでよ。
小滝君は優しくて助けてくれたんだから。
そう、言えればいいのに言えないのは自分の身可愛さに甘えてしまっている。
分かってるのに、言えないの。
『うん、あんな奴カス以下だよ。』
あー。言ってしまった。
しかも、私みんなよりも酷いこと言ってるよね。
クスクスとした表情で笑い出すみんなは『七彩のその性格好きだよ。』と言ってくる。
そんなこと言わないでよ。私がそれを言うのを待ってたくせに。
私はそれ以外の言葉を言わないように前からそう言って圧力かけているのはみんなの方じゃない。
あーぁ、本当にカス以下なのは私なのにね。
その後、小滝君が教室に入ってくると一気に雰囲気は固くなる。
ぐちゃぐちゃになった机を見渡して、中を確認する小滝君を見てみんなは楽しそうに微笑む。
何がおかしいの?
使えない程に刻まれた教科書を手に持った小滝君は辛そうに肩をしぼませて動かなかった。
『あいつ、やば。どんだけ見つめてんの?』
『ね、ヤバすぎ。バカじゃないの?』
ヒソヒソと聞こえる声は私の心を刺した。
なんでよ、人が辛そうにしているのがそんなに楽しいの?
私は眉をひそめて、今にも泣きそうになるがぐっと抑えて時が流れていくのを待った。
1秒が長く感じて実際どのくらいか分からないが、かなりの間静かになった教室は小滝君を孤立にさせているよう。
どうして、みんな小滝君に酷いことするの?
私がただ小滝君と話しているだけだったのに、私を助けてくれただけなのに、どうして?
もう、頭が上手くまわらなくてひたすらにどうして?と心の中で繰り返す。
それから毎日のように小滝君のものを隠したり、壊したり、悪口、暴行が続けられて日に日にどんどんエスカレートしていく。
私のせいなのに、私はただみんな側に立って小滝君に何もすることができなかった。
そんな自分が嫌になった。
すぐ終わると思ってたのに、1週間が経って私たちのグループから攻撃を受けないようにするためか、クラスのみんなも自ら小滝君を孤立にさせ、暴行をするようになった。
珠里の気分は1週間前よりも完全に高くて、楽しそうにみえた。
でも、私はすぐ終わる。と毎日のように心のどこかで信じて場をしのいでいた。
本当は気づいていた、これはそう簡単には終わらないと。
でも、それに気がついてしまったらもう私は明日を生きることが嫌になるから、世界が真っ黒に染められてしまうから、必死に気がつかないようにしてたのかな。