犬猿だったはずの同期を甘く誘惑したら
そしてある時、彼女に行きつけの店があることを知った俺は、今思えばかなり強引だったとは思うけど、
「俺、守屋と最寄り一緒だわ」とポロッと嘘をついて、彼女に付いていって一緒に酒を飲んだ。
それが、『なごみや』との出会いだ。
さすがにそれはねぇだろ。いつかバレる。
と自分では思いながらも、彼女のパーソナルスペースに少しでも入りたくて、必死だった。
なごみやで一緒に飲むうちに、彼女は俺には遠慮もなくズケズケと物を言うようになったし、彼女の素直じゃない一面も俺には見せてくれるようになった。
そしてそんな日々の中、俺は誰よりも彼女と仲の良い異性の同期として社内に名を知れ渡すことが出来た。
同期会でも、そんな噂を利用して必ず守屋のことは俺が送っていた。
だって、その辺の狼に取って食われんのは許せねぇじゃん?
色気ムンムンの酔っ払い守屋を離しておけるほど俺、心広くねぇし。
そしてしばらく、彼女と週に1、2回のペースで一緒に酒を飲む。そんな夢みたいな生活が続いていた。
でも、その一方では大学時代から俺の容姿を好んで寄り付く女たちが後を絶たず。
断り続けてるはずなのに、社内には女癖が悪いとか、だらしないといった噂が流れた。
当然、それは彼女の耳にも入るわけで、近づいている距離も一定の場所から止まったままで、それ以上は近づけないような気がした。
彼女が俺の事を少し軽蔑したような目で見るようになって、俺がどんだけ傷ついたことか。
彼女は全く知らないだろう。