バックシャンとよばないで

もうっ!

智絵里は心の中で盛大に舌打ちした
せっかくの淑女気分が台無しである

別に智絵里はどこかのご令嬢というわけではない、あくまで気分だ

智絵里はBA(ビューティーアドバイザー)、いわゆる化粧品の販売員で、大手化粧品会社に勤めている
都内のこれまた大手百貨店にある自社のコーナーで副店長を任されていた

今日は会社のブラッシュアップ研修として、『愛される女性の魅せ方・話し方講座』なるものを受講しに行き、大変有意義な時間を過ごした

『淑女になったつもりで気持ちにゆとりを持ち、常ににこやかに、動作はゆっくり丁寧に。
そう心がけて他人と接することが愛される女性の秘訣です』

講師はそう言って、それこそ女神のように微笑んでみせた

暗示にかかりやすく良くも悪くも感化されやすい智絵里は、教室を出る前から気持ちは淑女になりきって帰途についた

「まだ明るいし、こんなに早く帰れることなんてないんだから、ちょっと寄り道してこうかな、いや、かしら?」

信号待ちをしながらそんなことを考えて、気分は上々!っなところに、先程の残念なナンパ(未遂)である


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