3度目に、君を好きになったとき
「あの。上着、ありがとうございました」
そろそろ降りる駅が近づいてきた頃、結衣は僕のコートを脱ぎ、手渡してきた。
それをそのまま羽織ったら、コートに残っていた彼女の体温と仄かな香りが、自分の肩に移ってきて。
感情が顔に出ないように目を伏せた。
「蓮先輩。また一緒にスケッチできるの、楽しみにしてますね」
そう言って控えめに微笑んだ結衣は、本当に“あのこと”は忘れてしまったのだと切なく思いながら――
「……僕も、楽しみにしてる」
笑顔を作った僕は、緊張を抑えながらも小さな勇気を振り絞り、結衣の髪をそっと撫でた。
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