3度目に、君を好きになったとき
「ほんと……見てるこっちが歯がゆいわ」
眉間に指を当てて溜め息をついた千尋先輩は、急に何かを思いついたらしく、顔を上げる。
「白坂。今日、一緒に帰ろうか」
「えっ」
思いもかけない提案をされ、軽く戸惑う。
千尋先輩と二人きりで帰ったことなんて、今まで一度もなかったから。
「じゃあ、後で待ってるからな」
まだ返事をしていないのに、すばやく立ち上がった千尋先輩は自分の席へと戻っていく。
なぜか私は、千尋先輩と一緒に帰る約束をしてしまったらしい。
「……白坂さん」
ふと、隣から控えめに声をかけられ、ハッとする。
蓮先輩の声だ。
すぐそばに、好きな人が立っている。
私は持っていた筆を置き、背筋を伸ばした。
「……はい」
呼び方が『結衣』ではなくて苗字に戻っていたのは寂しいけれど、声をかけられるだけで嬉しい。
「千尋と……、何か話してた?」