3度目に、君を好きになったとき
「あ……、千尋先輩に一緒に帰ろうって言われました」
「……そう」
一瞬、蓮先輩は綺麗な眉を曇らせるけれど、すぐに元の優しい表情に戻る。
「ごめん、余計なことを聞いた」
「いえ……」
「その色、いいね」
蓮先輩の目線の先にあるパレットには、ちょうど作りかけの青があった。
コバルトブルーのその色には、白や紫を混ぜている。
今日は水彩画をやめて、アクリル絵の具で濃くはっきりと色を着けたい気分だった。
「結衣にしか作れない青だと思う」
近くに誰もいなかったせいか、下の名前で呼ばれて少し安心する。
この前、近づいたと思った距離が夢ではなかったと。
「先輩の描く空みたいな色を出したかったんですけど、難しいです」
私がそう言うと、蓮先輩の細長くて形の良い爪が、途中まで描いた風景画を指し示す。
「例えば、なんだけど。この木の陰の部分、もう少し濃くするとコントラストができていいかも。雲の部分にはハイライトを多めに入れるといいよ」
「あ。本当ですね。ありがとうございます」
「結衣は結衣で良い所があるんだから。もっと自信持って」
「……はい」