3度目に、君を好きになったとき
昇降口へと千尋先輩が早足に去り、薄暗い廊下には気まずい空気が流れる。
「ごめん、邪魔したかな」
ためらいがちに確認する蓮先輩に、笑顔はない。
「いえ、全然邪魔じゃないです」
むしろ助かりました。
私が慌てて首を左右に振ると、先輩はホッとしたように息をつく。
「千尋の代わりで悪いけど、今日は僕に送らせて」
「……お願いします」
代わりだなんて、そんなことはないのに。
それぞれの学年で靴を履き替えたあと、校舎の外を肩を並べて歩く。
「結衣。千尋と付き合うつもりだった?」
目を合わせず、前を向いたまま蓮先輩が聞いてくる。
「――まさか。千尋先輩は私のことからかって、楽しんでるだけですから」
でも正直に言うと、蓮先輩が止めてくれて嬉しかった。
蓮先輩が間に入ってくれなかったら……流されて断りきれずに、付き合うことになっていた可能性が1ミリくらいはあった。
千尋先輩は、蓮先輩が追ってくるのを見越していたのかもしれないけれど。