3度目に、君を好きになったとき
ピアノのコンサートだなんて、蓮先輩らしくて妄想が広がる。
「音楽を聴いたら、結衣の絵の題材が浮かぶかなと思って」
蓮先輩がそこまで考えてくれているなんて、細やかな気づかいが嬉しい。
「……っていうのは口実で。ただ、僕が結衣を誘いたかっただけなんだよね」
「お誘い嬉しいです……、楽しみにしてますね」
私と同じで、先輩も少しは一緒にいたいと思ってくれているのかな?
「僕も楽しみにしてる。――もう暗くなってきたし、帰ろうか」
先に立ち上がった先輩が、私に手を差し出した。
恐る恐る、自分の手を重ねてみる。
――今度は、何も起こらなかった。
動物園のときと違って、過去の嫌な記憶が頭に流れ込んでくることはない。
あれは、単に偶発的な出来事だったのか。
先輩に手を引かれ立ち上がったあと、すぐにその温かい手は離されてしまう。
少し寂しく思いながら、先輩の隣に並んだ。