3度目に、君を好きになったとき

気を取り直して、上質な紙に印刷されたプログラムへ視線を落とす。

そこに紹介されているのは、綺麗な顔立ちをしたピアニスト、佐伯遼。


白いシャツ、黒のスーツを着こなし、細身でスタイルが良い。

タイプ的には蓮先輩と似ている。

物腰柔らかで、繊細で。優しそうな雰囲気が写真からもにじみ出ていた。


じっくりと経歴などの紹介文を読んでいたら、

「結衣って、こういう人が好み?」

思わぬことを聞かれ、ドキリとする。


「別に好みというほどじゃないですよ、母が好きなだけで……。それに、母が言っていたんですけど、結婚してるみたいですし」

「そうなの? 既婚者なんだ」


ほんの少し蓮先輩に似ているから、気になっただけ。


私が言い訳を口にするより前に、開演を知らせるブザーが鳴り、いよいよコンサートが始まった。


黒いスーツを纏った細身の男性――佐伯遼がステージに現れ、拍手の中、客席へ向け一礼する。

優雅にピアノの前に座り、両手を軽く鍵盤へ置いた。
< 130 / 182 >

この作品をシェア

pagetop