3度目に、君を好きになったとき
「本当に、教えなくていい? 白坂だけが何も知らないままで生活していくの?」
私の前髪に触れた真鳥が、顔を覗き込むようにして問いかけた。
「それ、は。何も知らないままは困るけど」
「じゃあ……、ちょっとだけ目を閉じてみて」
真鳥にしては優しい声。
柔らかな声音に導かれるまま、軽く目を閉じる。
「落ち着いて、深呼吸して。楽になれるよ」
その言葉が終わると同時に、額に何かが触れた。
「…………」
もう一度目を開けたら、頭の中が真っ白になっていた。
――私は今、何をしようとしていたのか……
真鳥と大事なことを話していた気がしたのに、すぐに思い出せない。
私は一体……。
「大丈夫? 白坂」
ふらついた私の体を、真鳥が抱き止める。
「……あ、うん」
曖昧にうなずき、答えを探そうと真鳥の顔を見つめた。
確か、記憶を取り戻そうとしていた。
でも、何の記憶を?
混乱しているうちに、真鳥が低く何かをつぶやいた。
「忘れたままの方が幸せなこともあるよ。君が、っていうより、周りの人間がね」